『朝日新聞』(1954年4月27日夕刊2面)
来るか「円形校舎時代」
まず東京と金沢に出現
新学期に入っても、校舎の不足は、学校、生徒、PTAの三者いずれの側からも、依然深刻な悩みの種……ところが最近、金沢市と東京練馬の二カ所に、世界でも類例がないという型破りな”円形校舎”が出現。スマートでチャーミングで明るく、そのうえ、狭い場所にスッポリはまって建築費も安く、生徒収容力も大きいなど、いまの日本の実情に直結した優秀な特色をもっており、今後急速に「円形校舎時代」が来るのではないかと、教育界、建築界で評判になっています。この独創的な設計者は建築総合計画研究所所長坂本鹿名夫氏(四三)=東京都港区赤坂青山北町三ノ六三=で、以下同氏の話を中心に、新しい校舎の特徴を紹介しましょう。
日本の実情にピッタリ
工費は普通校舎の半分
円形校舎の第一号は金沢市金城高校で、昨年春に着工、本年七月に一部分完成の予定。第二号は東京都練馬区中村町三の山崎学園で、近く着工、十二月に完成の予定です。第一号の建築に着手して以来、各方面に大きな反響を呼び、設計者の坂本氏のところへ申込みが沢山あつまり、中にはニセの設計者も現れて問題を起したということです。
山崎学園の場合は、今まで中途半端に放ってあった狭い土地が、この円形校舎によって活用でき、完成すれば、円形一むねで九百名の生徒をいっぺんに収容することができるそうです。それで旧木造校舎の大半は取壊し、百メートルの直線コースもとれて、理想的な学校になると評判です。第二号だけあって、金沢のものとは比較にならぬほど改良が加えられ、質的には非常に向上しているにもかかわらず、建築費ははるかに下回る予想で、円形校舎の強みを十分に発揮しています。
大ざっぱに特徴を列挙してみると
第一に、施工費がク形校舎に比べ、約半分ですむこと、鉄筋コンクリートの場合、コンクリート量は半分以下、鉄筋量は三分の一ということです。
具体的にいうと、鉄筋三階建一むねで十五学級約九百名が収容でき、水洗便所、同浄化ソウ、消火セン、ケイコウト灯、暖房(一部)工事などを完備して、生徒一人当りの建築費二万七千円で、これはク形校舎の同四万七千円に比べ約四割安です。目下東京工大に依頼して構造方面を研究しているので、将来はさらにコストの低下を期待できるということです。
第二に、敷地がク形に比べ二割以上も少なくてすみ、幅をとらず、まとまりがいいので狭い場所や高低のある土地でも整地の必要なく利用できること。廊下を極度に切りつめることができ、建物にムダがなく、管理上も申分ないことです。
第三に、教室の形が劇場のように扇形で、音響効果がよく、黒板の光る心配がないので、外壁は全部ガラス張りにすることができ、通風、採光もよい。光線は生徒の背面からくるが、手暗がりになるようなことはなく、かえって落着いたフンイキになるということです。左右の壁面は生徒の研究作品の展示場として、有効に使われる。
第四に、入口は防火トビラとして火災の被害を一教室だけにとめることができる。また便所が一カ所ですみ、配線配管の容易なことなどです。
なお設計者は昭和十二年東京工大卒の建築家で、現在文部省モデル・スクール委員、工業技術庁規格委員。「建物を円形にすることは、わが国では議事堂、外国では図書館や古い劇場などに例があるが、学校建築に応用して、このように面積を節約し、扇形教室の中心に黒板を使うという例は世界でも初めての試みだ」といっています。
図
山崎学園完工予定図 手前中央が新設の円形校舎 図はその内部
写真
設計者坂本鹿名夫氏
表
円形校舎トク形トノ比較
面積
工費
外周
コンクリート
鉄筋
従来ノク形校舎
円形校舎(百分比)
『朝日新聞』(1954年4月27日夕刊2面)
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