『読売新聞』(1954年11月26日朝刊下町版8面)

富士見高校(練馬)に
 円形校舎第一号
  来月完成
 建築費、長方形校舎の半分以下

世界にも例がないといわれる”円形校舎”の第一号がいよいよ練馬区中村町の山崎学園富士見高校(校長鈴木〓氏)に近く完成する。長方形校舎にくらべて場所が狭くてすみ建築費も半分以下、しかも天災地変に強いなど利点が多いといわれ早くも評判になってマネるものが出ているので放っておいては防火面などに手をぬかれたら困ると、文部省などのすすめでさる六月特許を申請、近く認可になるという。【写真は完成近い校舎】
この設計者は、建築総合計画研究所長坂本鹿名夫氏(港区赤坂青山北町)で着工第一号は金沢市金城高校。これは予算難で一部完成したきり工事が行きづまり状態なので本当の第一号は東京に出現するわけだ。富士見高校のはさる七月着工、来月五日完成、十日に落成式を行う予定。直径二十七メートルの円筒形、鉄筋コンクリートの三階建、この上に屋上があり、さらに中心部の円形の約三十坪のホールがついている。中心部に屋上まで通ずるラセン形の階段があり、各階はそれぞれ百四十八坪でこれを扇形に六等分し、その一つは階段、便所、物置などに利用、他の五つは普通教室となり、計十五教室で同高校生九百余人がそっくり収容される。
 この円筒校舎を普通の長方形校舎にくらべると、コンクリートで約四割、鉄量で約三割、敷地面積で約八割が節約され、また円形のため工事の監督がしやすく職人の歩行線(歩く距離)が少なくなるなどのため能率が上がり工費が四割以上も短縮できるという。結局、長方形なら四千万円から五千万円かかるものを同校の場合総工費はほぼ半分の二千五百五十万円ででき、しかもそれでいて諸設備も井戸、電気のほか水洗便所、消火セン、自動火災報知器、拡声機、ダスト・シュート(ゴミ落し)まで各階につくというから至れりつくせり。
さらに、扉の一つ一つには鉄板が入れてあるので火災の被害防止にも注意が向けられている。通風も問題なく、教室が扇形のため教師が中心に立って話ができるし、音響効果がよく、外壁が全部ガラス張りなので、二次光線をふんだんに利用して日当りの不公平も解消されるそうだ。このほか円形なので地震や強風にも強く天災国の貧乏国にはおあつらえ向きの建物だ。同校では四階のホールは生徒会、同窓会などに使い、ラセン階段でショーなどもやれるし、狭い土地に全生徒を一ぺんに収容、運動場も広くつかえると喜んでいる。
 なお小倉市立第二菊陵中、鳥取県倉吉市立明倫小でもほぼ同じ大きさのものを今年中に、都内では立正交成会の交成学園、日赤武蔵野病院看護婦養成所が来年早々工事をはじめるという。
坂本氏談「始めは冒険だと思ったがやってみてよかったと思う。室内のハリなど改良を加えれば建築費はもっと安くなる。構造上の調査は東京工大に頼んでいる。図書館、劇場を除いて円形の学校建築は世界でも例がないはずだ」

『読売新聞』(1954年11月26日朝刊下町版8面)

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