『朝日新聞』(1957年11月18日朝刊大阪版8面)

円型建物 評判記

病院には好適
利点は建築費の安上り
学校 音響の配慮必要

 八尾市内にことし組合立伝染病院、市立看護婦宿舎、南山本小学校の三つの円型建物があいついで完成しいま工事中の市立集会所、曙川中学校をあわせると来春には五つになる。円型建物にはどんな長所、欠点があるのか、これは病院、宿舎、学校それぞれの立場の評判記……。

学校
八尾市南山本小学校は二階建で普通教室十二と特別教室二、職員室、校長室などがある。各教室は扇形で児童はカナメに向って座るので先生に注意力が集中するし、光線も背後の総ガラスの窓から入るので黒板がよく見える。ふつうの校舎なら、廊下や校庭を来校者が通るとつい気をとられるが、これも全くない。小さな面積に教室が圧縮されたかっこうで、学校管理には好都合だし、始業ベルが鳴ってから先生が長い廊下を歩いてくるのでは時間の空費が大きいが、ここでは先生はすぐに教室へ出られる。ところが授業する側の先生からみるとなるほど生徒はみんなこちらを向いてくれていいようだが、背景は窓で明るいのに生徒の顔は影になるのでコントラストがきつくてとても眼が疲れるという。九月中旬この校舎へ移った当時、先生たちは「四時間授業をしたら六時間分ほど疲れるとだれもがこぼした。それに扇形教室は奇妙な音の反響がある。先生が大きい声を出すと響いて聞きとれない。小さくても聞えないのでちょうどいい音量に苦心が要る。校舎の中央は円型廊下で、階段があり、一、二階をぶちぬいた円筒形になっている。音楽教室からの音がこの円筒に響いてどの教室にもまる聞えになる。「音楽教室は別むねでなければ」の声がある。
中央廊下は各教室に囲まれているため風通しが悪く、大勢の児童が昇り降りすると汚い空気がこもる。そこでこの階段はふだん使わず、建物の外側から二階へ昇る非常階段を使うというあべこべのことをやっている。音響への配慮が足りなかったのは、もともと木造で建てる間際になって地元から円型でもよいから鉄筋にと要望があり、起債の期限に押しせまられて、設計は他の学校のをそのまま使ったためだと土木課では弁明しており、次に建てる曙川中学校では完全な防音装備をするという。

病院
八尾伝染病院は円型建物の病舎は東京武蔵野日赤病院についで全国で二番目。完成したことしの冬、厚生省病院管理研究所発行の「病院」誌に、通風、音響は部屋が扇形になるなどのことで円型病舎に欠点があると指摘されていた。ところが実際に使ってみると案外よいというのが林病院長の意見、武蔵野日赤の神崎院長も合理的だと同誌で発表している。伝染病院では特に患者に対する監視が必要だが、各階とも中央に看護婦詰所があり、どの部屋も詰所から透明ガラスのドアー越しに患者の一挙一動がわかる。それに看護婦にとって歩く距離が短くてすむのでふつうの病舎で勤務するのと疲れがまるでちがうそうだ。ことしの三月同市大正地区で赤痢の集団発生があり、一度に最高百八人を収容した。ほかでなら二十人以上も必要な看護婦がわずか九人で完全看護できたのは円型病舎ならではのことだった。
ここでは北向きの部屋は消毒室や階段、便所などで、病室は東、南、西向き。患者用には外側にゆるい傾斜の昇降廊下がある。林院長は「綜合病院としては無理だが、結核、小児科などにも最適だ」といっている。

宿舎
八尾市立病院看護婦宿舎は横浜日赤病院についで全国二番目の円型宿舎、約六十人が起居している。中央はラセン階段で、各室は入ったところが二段式ベットで、奥の窓際に約六畳の居間があり、四人一室。はじめは真四角でない部屋の感じがなんともおかしなぐあいだったが、いまでは全く快適だという。ただし朝日を受ける部屋、西日に照らされる部屋など一様でないため、一年ぐらいで交代するそうだ。共通の利点としては建築費が安いことと、面積をとらないことがあげられる。
南山本校を例にとると総工費は千八百五十万円だが、これを普通の建て方にすると三割高くなるし、面積も五十坪以上広くなるそうだ。
しかし結論としては病院と宿舎にはもってこいでも、学校には音響に対する配慮がぜひ必要ということになりそうだ。

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