『戦後モダニズムの学校建築』
川島智生著『戦後モダニズムの学校建築』鹿島出版会(2024年)
昭和三〇年代の時代の華だった円形校舎は耐震・耐火・耐久という建築の理想の三要素が備わった鉄筋コンクリート造であったにもかかわらず、木造校舎なみのローコストで建設が可能な建築であったことで、絶大な人気を得た。
その理由は円形ゆえに内側の廊下の長さが短く、教室数に比べて廊下などの共有面積が少なく済んだことが関連する。すなわち一定の建築面積の中で、最大限の教室数が取れるプラン上の効率性も、児童急増期で教室不足の昭和三〇年代には魅力的なものだった。また円形ゆえに、広い敷地は必要なく端でおさまる。そのようなコンパクトでどこにでも建てられるということも大きな利点だった。
人気のもうひとつの理由は、全面ガラス張りという外観に由来する。そこではどの面からみても同一なスタイルという、ファサードが生まれており、それまでの学校校舎に多かった、玄関廻りだけを特別な扱いにするというデザインはなされていない。いわば、玄関がどこにあるのかわからないぐらい、外観のうえでの均質性が浸透した建築であった。戦後のモダニズムのひとつのありかたが具現化したかのようにみえる。つまり、これまでの校舎建築が持つ権威的な要素がまったくなく、透明性に溢れ、教室がみな扇形で、職員室も校長室も教室と同じ均質なものとなり、誰の目にも新しい時代を十分に予感させる建築だったのだ。いってみればひとつの究極のモダニズム建築であったともいえる。
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